file.12 平川 元樹

file.12 平川 元樹

(この原稿は2016年9月11日のザスパクサツ群馬戦のマッチデープログラムに掲載されたものの転載です。) 「今年は鮭が2匹も帰ってきた。」「鮭になって戻って来てほしい。」これは漁業のお話しではありません。育成年代を見ている方にはお馴染みのフレーズですが、一度U-18から卒業し、大学を経てトップチームへ戻ってくる選手を、大海原で育って生まれた川に帰ってくる生態に重ねて『鮭』。誰が言い出したのか、いい得て妙ですね。北海道は魚の鮭が有名ですが、こちらの『鮭』も今年はたくさんの候補が川上りに挑戦しに来ました。その中で今回は、U-18から日本体育大学に進学した大学2年生・平川元樹くんに登場してもらうことになりました。 「正直2年生でここに来られるとは思ってなくて驚いた。」たまたま帰省していた時にクラブから声が掛かり、大学への合流を遅らせてもらって練習に参加した。プロの選手、特にFWの選手のフィニッシュの精度、スピード、技術、パワーなど、まだまだ自分が追い付いてないことを痛感した。「大学に入ってから体作りに取り組んでいるので、そういった面ではU-18の頃よりは少しは通用したかなと思う。」U-18からトップへの昇格がないと言われた時には、「自分の実力からして当然だと納得しました。」それでもプロへの夢を諦めることはなく、成長できる環境を求めて本州の大学への進学を決めた。「体育大ということで、真剣に競技をやっている人が多かったので。」上を目指す仲間たちと日々、黙々とトレーニングに励んでいる。サッカー部の練習は、グラウンド外の筋トレなどは自分でメニューを考えて行うことになっているらしい。拘束もされず、時間の使い方は自分次第。大学があるのは横浜だ。遊んだりする環境も周りにたくさんあるけど?「僕は、遊んでないです。(きっぱり!)」 トップチームにはU-18の同期・進藤亮佑選手がいる。「進藤の活躍には刺激を貰っています。開幕戦も招待してくれて観に行ったんですよ。四方さんが監督だし、また、みんなで一緒にやりたいです。」
四方田監督はU-18監督として平川くんを指導していた。「頑張るし、動ける選手だったね。背丈もあるからヘディングで点も取れる。今回久しぶりに見たら体つきが随分大人になって、球際の部分などは強さが出てきた。」平川くんに限らず、最終学年でない選手の練習参加には、ここで見極めようというよりも、彼らが成長するためのひとつの刺激という意味合いが強いという。「昇格できなかった選手はその課題を克服するために沢山試合に出る必要があるし、もちろん実力次第ではあるけど、大学ではそういった試合経験を積むことができるのがメリット。こうやってプロと一緒に練習する機会も、同じように成長のための経験のひとつとして捉えて欲しい。」『鮭』としてまたクラブに戻ってくるのは簡単ではないと四方田監督は言う。「大卒の選手は戦力として計算できないと獲得しない。18歳で上がるよりも、基準は確実に高い。そこをクリアするのは難しい。」 平川くんの他にも、夏休み期間中には入れ代わり立ち代わり大学生が練習参加に訪れました。うちのクラブ出身の選手もいれば、北海道出身の高校や他クラブ出身者も。最終学年の選手たちにとっては、ここが最終関門。スタッフルームに挨拶に訪れた見知った選手に、コーチ陣から「思いっきりアピールしろよ!」との声が。四方田監督も他のスタッフも、彼らを選ぶ側の人間であり、時には、いや大半の場合において、厳しい現実を通達する側にならなければなりません。でも同時に、巣立って行く彼らを送り出した側でもあり。思わず溢れた複雑な愛情が、「アピールしろよ!」という叱咤激励の言葉だったのかもしれません。